Horse Racing Cafe2号店(仮設)

Horse Racing Cafeの2号店(仮設)的なもの

ブルーコンコルド乗馬の件についてちょっとだけ

 やや話題に乗り遅れた感もあるが、BC中継の合間に思いのままにキーボードを叩く

 11月1日の天皇賞・秋、カンパニーが素晴らしい切れ味を発揮し悲願のGⅠ制覇を達成したことは記憶に新しい。8歳馬による平地GⅠ制覇はJRA史上初の快挙であり、後年カンパニーが語られるにあたっての山場となる箇所はまさにこのレースとなるのであろう。だがこの馬を語る上で、もう一つ重要な物語があることを忘れてはならない。そう、カンパニーの父ミラクルアドマイヤの箇所である。
 ミラクルアドマイヤの現役時代における成績は3戦1勝。勝ち鞍は未出走戦における1勝のみと、長期休養があったにせよ種牡馬して供用されるには随分と物足りない成績である。だがそんなミラクルアドマイヤ種牡馬入りするに至った最大の要因は自身の持つ血統にこそあった。母バレークイーン、つまりは兄に96年のダービー馬フサイチコンコルド*1を持つその血統背景をオーナーに期待されての種牡馬入りであったのだ。言うならば、この時点においてはミラクルアドマイヤ自身が自らの走りで種牡馬への道を切り開いたのではなく、あくまでもその道を切り開いたのは賢兄フサイチコンコルドの存在だったのである。
 種牡馬入り後にミラクルアドマイヤが歩んだ道はまさに波乱万丈と評するに相応しい。初年度こそ意外や意外、39頭と僅か1勝馬にしてはかなりの頭数となる繁殖牝馬を集めたミラクルアドマイヤだが、その後は26頭、18頭と予想通りの減少を見せ、03年の種付け頭数は僅かに1頭。現役の種牡馬としてはほぼ廃用寸前の数字である。
 だが、04年に入るとミラクルアドマイヤを取り囲む環境は一変する。この年からブリーダーズスタリオンステーションへと供用先が移動されると、春の種付けシーズンではなんと170頭もの繁殖牝馬を集めることに成功したのだ。それはカンパニーら初年度産駒がそこそこの活躍を見せたことにより、この馬が様々な媒体で取り上げられる機会が増加したことが主な要因であろうか。それによって、この種牡馬の存在を多くの生産者・競馬関係者が知ることとなり、ダービー馬の弟という〝分かりやすい血統〟ながらも割安といえる種付け料、数少ない産駒の中からも活躍馬を出せるポテンシャル、といった点を魅力に感じた生産者が我先にとばかりにこの種牡馬の下に繁殖牝馬を送るという好循環を産んだのだ。
 しかしながら、こうして苦労の末に生まれた好循環も「産駒の活躍」という最重要ポイントに行き詰まりを見せるようになるとたちまち悪循環へと取って代わられてしまう。種牡馬ミラクルアドマイヤに列を成した生産者達、そして何よりもミラクルアドマイヤ自身が待ち望んだ「カンパニーの次」が出てくることはなかった。170頭もの牝馬を集めた期待の05年生にしてもその世代の中央初勝利は08年2月。結局のところその世代から中央で勝ち上がりを見せたのは僅かに3頭である*2。これでは流行に人一倍踊らされやすい生産者達が一挙に手を引くのもやむをえないのだろう。ミラクルアドマイヤの08年の種付け頭数は10頭にまで落ち込み、その年を持って種牡馬から引退、結局は乗馬へと転用することとなったのだ*3
 
 人気種牡馬から一転、種牡馬廃用という非常に苦い経験したミラクルアドマイヤ。だがこの馬の場合はまだそれなりの〝血を残す機会〟を与えられ、おそらくカンパニーを通じて次世代に血を繋げることができるだけにサラブレッドとしては幸せだったと言えるのかもしれない。カンパニーによる偉業から2日後、ヴァーミリアンによる前人未到のGⅠ8勝というカンパニーの偉業に並ぶとも劣らない記録がJBCで達成された。しかし、その栄光の影でもう1頭GⅠ8勝目に挑戦するも夢破れ、ターフを去ることとなった馬がいる。
 ブルーコンコルド、くしくもミラクルアドマイヤの兄であるフサイチコンコルドが送り出したGⅠ馬はサラブレッド最大の使命である血を後世に残す機会を与えられることはなく、乗馬として余生を送ることが先日発表された。ブルーコンコルドの戦跡は50戦15勝、うち統一GⅠ7勝。だが報じられているように種牡馬としてのオファーが届くことはなかった。アドマイヤドンのように「芝GⅠを含めてのGⅠ7勝」ではオファーがゼロということも有り得なかったか。また、ミラクルアドマイヤのように競走成績抜きで生産者の需要が見込まれる血統だったならば種牡馬としての道も開けただろうか。それとも、せめて中央でフェブラリーSJCDを勝っていれば運命は変わっていたか。だが、ブルーコンコルドのように血統も平凡であり「ダートのみ地方交流GⅠ7勝」となると話は別であった。結局のところ血統という先天的な部分の問題は別にすると、「ダートは芝の二軍」、一人一人の競馬ファンがどのように感じているかは置いておいて、少なくとも生産者側においてはその意識が根強いどころか、一段と強まりつつあるのことが今回の出来事の根底ではないかなと思わされる。
 クラシックを中心に芝中心の競馬番組が組まれている中においては、芝で頭打ちとなった馬がダートに向かう傾向が今後も変わるということは考えにくい。となると、少なくとも中央競馬では芝の競馬がまず存在し、それを補充するものとしての存在がダート競馬ということになる。極端に言えば、JRAからすればダート競馬の存在理由は「芝でばかりレースをするとすぐに馬場が荒れる為」だし、また生産者側からすればダート競馬とは「芝で強い馬を作るための賞金稼ぎの場」。言わば根底にあるのは「芝競馬こそが正義」の芝競馬中心主義。とすると、ダート馬は元々芝適正で見切りをつけられてダートを走っているだけに、種牡馬入りしても芝で走る仔を生み出す可能性は低い。そうなるとたとえ種牡馬入りしても人気が出ないと。
 そして、それを示すかのように今までダート競馬のみで成績を残した馬の種牡馬成績はどれも芳しくない。地方交流競争が始まって10年以上経つにもかかわらず、現役時代にダートGⅠタイトルを持つ種牡馬が送り出した初のダートGⅠ勝ち馬は今年のかしわ記念におけるエスポワールシチーの勝利まで待たされた。そのエスポワールシチーの父ゴールドアリュールにしてもダービー5着と芝でも並以上のスピードは持ち合わせていた。そうなると、純粋に芝で完全に頭打ちになってからダートへ転向した種牡馬の成績はもはや言うまでもないだろう。
 2歳時に芝重賞勝ちがあるなど芝でも一定の成績を残していたブルーコンコルドは純粋に頭打ちになったと言うことはできないかもしれない。だが、折からの不況に加えて生産頭数の減少などの影響により余裕がなくなっている生産者側はほんの僅かなリスクでも取ることを躊躇するようになってきている。「芝がダメでもダートで稼いでくれれば」、そんなのんきなことを言っても肝心のダートでもSS系種牡馬や輸入種牡馬に後れを取っているのが現状であるのだから、生産者側の需要という面からすればブルーコンコルドに対するこの選択もやむをえないのかなとも思う。ただ、ファンの目線、そして競馬の持つ意味を考えたときにGⅠ7勝という類稀なる成績を残した馬が種牡馬としてのチャンスも与えられないまま乗馬になるというのは明らかにおかしいと言わざるを得ないのが今回の問題のややこしいところなのだなと何とも煮え切らないままに思考を終了。

*1:弟に今年の皐月賞アンライバルド、甥に07年皐月賞勝ちのヴィクトリー

*2:2009年11月7日現在

*3:http://blog.goo.ne.jp/umaichi_news/e/2450b11de3795d70e1c184ab7ed0d278