Horse Racing Cafe2号店(仮設)

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セレクトセール2日目・3日目雑感

 今更、セレクトセールかよと思われるかもしれないが、旅行準備やら何やらで時間を取られて1日目以降放置状態だったので、反省の意味も込めて簡単に思ったことを。
 種牡馬ディープインパクトが最初にその評価を受ける舞台となった今年のセレクトセールだが、結果としては、36頭が上場されて31頭落札、1億越えが4頭、平均価格6161万2903円と同じように初産駒が注目された06年のキングカメハメハ(43頭上場、31頭落札、1億越えが3頭、平均価格5629万0323円)の数値を上回ることに成功し、市場からはそれなりの評価を得ることが出来たと言えるのではないだろうか。しかし、期待されたビワハイジの仔でも22000万円と過去の最高価格落札馬としてはやや大人しめの価格であったことに加え、落札価格が5000万円を下回った産駒も落札された約半数の15頭と決して少なくなかったなど、せり前に期待されたような暴騰したマネーゲームが見られず、どこかせり自体に物足りなさを感じたことも事実である。馬主側が周囲の過剰とも言えるディープインパクト産駒への期待に惑わされることなく、まだ産駒もデビューしていない1頭の新種牡馬としてあくまで冷静に、シビアにせりに臨んだ結果がこれなのだろうが、平均価格が1億を超えた年もあったSS時代をあわよくばもう一度と考えていた生産者側やマスコミ、一部の競馬オタ側との意識のズレが垣間見えたことも今回のせりで覚えておく必要があるのではなかろうか。2年後、産駒がデビューを果たし、父の名に恥じない結果を残せば偉大なるSSに近づける可能性もまだ残っているが、現時点での種牡馬ディープインパクトに対する評価は「現役時代の実績には敬意を表しながらも半信半疑」といった状態が正しいと言えるか。ダーレージャパンアグネスタキオン産駒を4頭購入する中でディープインパクト産駒は1頭も購買しなかったという事実は「ディープインパクトと言えども数多くいる新種牡馬の1頭に過ぎない」ということを表しているような気がしてならないのだが、どうだろう。
 ディープ産駒に対する意見はこれくらいにしておいて、今回のセレクトセール当歳市場で感じたこととして、
牝馬の評価上昇?
②購買馬主層の停滞
③持ち込み馬に対する評価急落
 の3点である。まず、②と③はとりあえず今日のところは横に置いておいて、①について今日はダラダラと書いていこう。
 もう今更言うまでも無いことだが、セレクトセールに限らずどのセールにおいても牝馬より牡馬の方が高く売れることは間違いない。その例に漏れることなく、今年のセレクトセールでも牝馬の平均価格(約2438万)を牡馬の平均価格(約3591万)が上回ることとなった。しかし、今年は今までの法則とは少し違った動きを見せたのである。それは、牡馬の平均価格が400万円強下がったのに対し、牝馬の平均価格は逆に400万円上昇したのである。

牡馬平均 牝馬平均 牝馬価格/牡馬価格×100
1999 3930万 1403万 35.6%
2000 4052万 2235万 55.1%
2001 3272万 1793万 54.7%
2002 3359万 1773万 52.7%
2003 3806万 2032万 53.3%
2004 3750万 1863万 49.6%
2005 3720万 1943万 52.2%
2006 4182万 2725万 65.1%
2007 3963万 2026万 51.1%
2008 3591万 2438万 67.8%

※98年は1歳と当歳を分けることが出来なかったので除く
 
 上の表を見てみれば分かるように、毎年牡馬の平均落札価格に対する牝馬の平均落札価格は5割前後で推移している(06年は例の6億円馬の年なので65%だが)。そして、牡馬の平均価格が前年に比べて上がれば牝馬の平均も上昇する、前年に比べ牡馬の価格が下落すれば牝馬の価格も下落するといった相関関係をほぼ示してきた。しかし、今年は牡馬の価格に対する牝馬価格の割合が過去最高の67.8%を記録した。そして、牡馬の価格が07年から下落したにもかかわらず、牝馬の価格が上昇するという、これまでには見られなかった市場の動きを示されたのだった。
 何故、今年のせりでこのような動きが示されたのだろうか。まず、考えられるのは牝馬の高額落札馬が多かったのではないかということだ。確かに今年のせりでもウオッカの半妹が1億を超える値で落札された。しかし、毎年大台越えで落札される牝馬は出ていることを考えると、06年のトゥザヴィクトリーの2006(6億円)のように1頭の力でグーンと引き上げられた可能性はないと考えられる。それでは、何故なのだろうか。ここで私が推測することは、購買者が「牝馬」を考える時、その価値を「競走」だけではなく「繁殖」という面へも求め始めたのではないだろうかと言うことである。
 このような意識を私が初めて感じたのは例のトゥザヴィクトリー06が6億で落札された時だ。当時、代理として落札した多田氏は「仏オークスを目指すよ」とか何とか言っていたが現実に考えて競争成績だけで6億をペイするということは非常に難しい(あのアドマイヤグルーヴでも競走生活で稼いだ金額は55000万)。じゃあ、どうやってペイすると考えると、引退後の繁殖価値を踏まえての投資となるのだ。要するに、願わくばGⅠでも勝って繁殖入り、仔をせりに出して(゜Д゜)ウマーとするのがペイする最も手っ取り早い近道となる。このチャレンジは残念ながら故障?によって成功する可能性は低そうなのだが、つまりこの時が日本競馬界において「繁殖価値」を意図した上でのせりが明確な形で初めて行われた例と考えられるのではなかろうか(まあ、ペイとか考えず、単純に金持ちの道楽の可能性もかなりある)。
 そして、時は流れて2008年。今年、牝馬の最高価格となったタニノシスターの2008を落札したダーレー・ジャパンのJohn Fergusonは繁殖価値を含めた購買であると明言した。それに対し、1歳セールになるがフリオーソの全妹となるファーザ2007をノーザンファームが落札したことも間違いなく繁殖価値を踏まえてのものだろう。そして、同じような動きは07年の1歳市場でノーザンのお得意馬主である金子真人氏がダーレー・ジャパンから上場されたMoon Balladの近親、ヴェルヴェットクイーンの2006を落札したことにもあった。さらに言うならば、2004年のオータムセールにおいて名繁殖牝馬スイーブの孫にあたるロングバージンの2004(後のキストゥヘヴン)を吉田勝巳氏率いる社台コーポレーションが落札した時から既に始まっていたのかもしれない。
 このような「繁殖」に価値を見出す動きが目立つようになってきた理由の一つとして、SS死亡後の後継馬争いに終止符が打たれていない現実がある。とりあえず、SSを付けときゃバカ売れだった時代とは異なり、生産者にしてみれば〝売れる方程式〟の解をまだ見つけ出せていないのだ。今年はアグネスタキオンリーディングサイヤーの座に就きそうだが、そのタキオンでさえも2008セレクトセールでの平均落札価格は2007年に比べて1000万近く下落(2007年5609万が2008年4141万に)するなど、まだ確定の赤ランプ点灯と見るには早いのが現実である。父親に確実性を見出せないのであれば、どうすればいいのか。答えは簡単だ。母親に、牝系に活路を見出せばいいのである。
 それを示したのが、今年のセレクトセール当歳で13500万円で落札されたロゼダンジュの2008(父クロフネ)ではないだろうか。母親は競走成績24戦1勝、500万条件で3着以内に1回しか入れなかったごくごくありふれた馬だった。そんな牝馬の仔が何故セレクトセール2008で落札価格2位となる高値で落札されたのか。それは母親があの薔薇一族出身だからにほかならない。言うならば、落札した多田氏はロゼダンジュという母の持つ競走能力ではなく、薔薇一族という名牝系が購入の最大の決め手となったと言ってもいいだろう(ここでは馬体や評判という面は除く)。つまり、活躍馬を多数排出している名門牝系だからこそ競走成績が今一つに終わった馬であってもその仔に十分な値がつくことになったのだ。
 だがこのような成功例はとても稀なものであり、こういった「繁殖価値」をせり段階で含めるという意識がすぐに日本の生産会全体に行き渡ることは難しいだろう。賞金がいいために繁殖を所有するというリスクを馬主が取り難い風潮、馬を見るにあたってどうしてもサンプル数が豊富な父系に頼ってしまうという考えは一朝一夕で変えられるような代物ではないからだ。だが、ポストSS争いという華々しい動きに目が引かれる一方で、その影で社台グループやダーレー・ジャパンといった大手牧場は牝系に着目した動きを確実に強めている。そして、ポストSSが私たちの前にいよいよ姿を現した時、その蓄積されてきた血脈が本当の意味で花咲くことになるのであろう。

 あー疲れた。②と③をやるかは不明である。